都市型IP地域網とデータセンタの調査(米国)
〜Phonoscope 視察〜
報告書
報告者:鈴木常彦
2000年2月24日、メトロポリタン・エリア・ネットワークとデータセンターを事業化している先進事例の調査として、米国テキサス州ヒューストンのPhonoscope社を訪問した。
訪問日時: 2000年2月24日(木)10:00〜12:30
本社所在地: 6105 Westline Drive, Houston, Texas 77036-3515
USA
従業員: 33名

1953年 Custom TV, Inc.,としてMATV (Master Antenna Television)
をHouston downtownに提供開始
1957年 Closed Circuit of Houston社がtwo-way televisionを提供開始
1958年 Phonoscope, Inc. of Galveston社がGalveston Independent School
District.にtwo-way audio/video television networkを提供開始
1959年 Closed Circuit of HoustonとPhonoscope, Inc. of Galvestonが合併しPhonoscope,
Inc.となる
1963年 Phonoscope Community TV, Inc.としてヒューストン初のCATVサービスを開始
1984年 ヒューストンに光ファイバーリングMAN (Metropolitan Area Network)を構築開始
1989年 エクソンをメインユーザとして、80マイルを超えるファイバーリングでヒューストンの主要エリアを網羅
1996年 NeoSoft社をISPとして、ヒューストン初のケーブルモデム(512kbps)サービスを開始
1997年 一般家庭ユーザの大半をOpTel社に売却。全市のビジネスユーザと一部地域の一般家庭ユーザは確保
1998年 P-2000 Video Voice and Data Workstationを発表
1999年 ファイバー総延長が5,000マイルに。"MAGIE"
Peering Groupを開始。MCIのHouston MAEに取って変わる。
Phonoscope社サービス概要
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ギガビットデータ通信サービス
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地域IX (MAGIE)
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データセンター
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ダークファイバー(心線貸し)
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双方向ビデオ会議システム
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遠隔教育システム
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双方向衛星通信
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ビジネス向けCATV
訪問次第
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Phonoscope社の会社概要紹介
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我々サイドの現状とプラン(TOMOE)の説明
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ギガビットデータ通信サービスとMAGIEの紹介
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質疑応答
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設備見学
ギガビットデータ通信サービス
1984年から光ファイバーによるMAN(Metropolitan Area
Network)の構築を始め、現在は総延長24,000マイルになっている。ネットワークはノンストップ設計で2重化されている。
このMANは地域IXとして機能している。従来、地域内の通信もMAE-West
(MCIの西海岸IX)から、MAE-East(MCIの東海岸IX)へと、米国を一周していた。(Fig.1)
Phonoscopeのネットワークは7つのPOPをギガビットで接続し、各POPは8Gbpsの容量を持つSummit1が受け持ち、10/100/1000Mbpsのサービスを提供している。プロトコルとしてはイーサネットフレームonlyのシンプルなネットワークであり、ギガビットイーサのうえで、802.1Q(VLAN)と、802.1p(QoS)をもちいている。幹線は1Gbps(GBIC)であるが、Extremenetworksが今年提供予定のWDMでテラバイトの通信が可能となる。
地域IX (MAGIE)
PhonoscopeではプライベートVLANとしてユーザを分けるとともに、地域IXであるMAGIE(Metropolitan
Area Gigabit Internet Exchange)でユーザ同士を相互接続するのにもVLANをうまく使用している。MAGIEでは各POPの各ユーザのルータ共通に777というTag
ID (802.1Q)を振ってデータリンク層を共有することにより0ホップでのピアを可能にしている。BGPのオペレーションにはPhonoscopeは直接には関与していない。従来IXというと点で接続するイメージがあるが、ここでは5つのPOPにまたがって、1Gbpsの面でIXが構成されているわけである。Table
1にこの777のセグメントの参加費用を示す。100Mbpsルータのコロケーションによる接続が$350と安い。
現在11組織がピアリング(相互接続)を行っている。
Table 1 MAGIE料金表 (http://www.magie-houston.net/
より)
SERVICE
TYPE: |
MONTHLY
FEE: |
Phonoscope's 100 Mbps local loop connectivity with port charges |
$ 1,750.00 |
Phonoscope's 10 Mbps local loop connectivity with port charges |
$ 1,250.00 |
Co-Location Service only, 100 Mbps port |
$ 350.00 |
Co-Location Service only, 10 Mbps port |
$ 250.00 |
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彼らのホームページによればMAGIE's Peering Benefitsとして以下があげられている。
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トラフィック交換は無料で、他の課金式のピアリンググループとは大変異なっている。
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ISPは顧客の通信をインターネットバックボーンに接続する為に、有償のアクセスラインを通す必要がない。「バックボーンアクセスをタダにして、大金を節約しサイバー世界旅行にでかけよう」
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地域サイトへの速いアクセスと速い転送時間はエンドユーザの利益である。
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無停止、全二重、無欠陥のヒューストン最大の光ファイバMANであるPhonescopeネットワークが無制限利用できる
($250 month !!)
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ISPは安価なハードによる顧客サービスで勝利する。
Backbornの共同購入
我々のいうところのトランジットの共同購入という概念とは異なるが、AustinにあるEXODUSのデータセンターとPhonoscopeのデータセンターをATMで結び、ユーザーが分割して利用している。ATM
OC-3を$10,000/monthで引き、PVCでユーザーに分割し、各社$2,000〜$4,000でExodusへのリーチャビリティを得ている。各社、ExodusとPhonoscopeのデータセンター間は、VLANで結合されている。遠隔のデーターセンター同士の接続、しかも相手はExodusということで、かなりの付加価値を実現していると思われる。
質議
Q. ブライベートASはサービスに利用しているか。コンフェデレーションなどを行っているのか。
A. サービスとしては利用していない。ユーザが使用している。コンフェデレーションも利用されている。
Q. MAGIEを利用しているNational ISPはヒューストン地域のIPアドレスを切り出しているのか。
A. MAGIEには今のところ地域ISPしか参加していない。ギガビットデータ通信サービスはNational
ISPも利用しているが、特に地域分を切り出して何かに利用しているということはないと思う。他地域のデータセンターとの連係という例は上記のようなものがある。
Q. ネットワーク構成を教えてほしい。
A. 図面に記載されたものがすべて(別途資料添付)
Q. ネットワークのエッジには何をつかっているか。
A. ハブ
Q. 1Gbpsという速度はHoustonエリアだけのものか。外部との接続速度はどうなっているか。
A. ギガビットデータ通信サービスは基本的にはISPではない(ブライベートVLANサービス)。外部接続は各社それぞれ用意している。Phonoscope自身はNeoSoft社と組んでISPをしており(主として512kbpsCATVモデムによる)、DS-3でサンフランシスコ方面に繋がっている。(あとでデモをみせてもらったが、非常に速い。Webページが1secくらいで開く)
Q. Phonoscopeのサービスと他のISPのサービスとはコンフリクトしないのか。
A. 良く聞かれる質問である。どのISPもそれぞれ特徴あるアプリケーションサービスを行っていて、接続そのものがメインのサービスではないため、コンフリクトの問題はない。Phonoscope自身もISPという側面よりも、地域通信サービスの基盤提供という位置付けで考えている。我々のビジネスのモットーは「Simple
is Best」である。ASPなどのアプリケーションレイヤーに手をだすつもりはない。
Q. なぜ市内通信が無料なのか。
A. 無料ではない。(Freeというのは、MAGIEの777セグメントを共用するトラフィックに限定した話。とはいっても安い)
Q. 他社もPhonoscopeのネットワーク上でデータセンターなどのビジネスが可能であると思うが、Phonoscopeが他社より有利な点はやはりVLANを統括している点か。
A. そのとおりである。Summitのパスワードはread権についてはユーザにも発行しているが、当然ながらmanagingのパスワードはswitchごと提供している大手ユーザにも解放していない。
Q. 現在および3年後のマーケット規模はどうなっているか。
A. 半年で倍という速さで成長している。(絶対額については回答が聞けなかった)
Q. どのようなアプリケーションがギガビットデータ通信サービスに適しているか。
A. 医療情報や教育の分野などがあげられる。ストリーミング(ビデオ等)系サービスにも適している。
まとめ
Phonoscopeのネットワーク事業の根幹は"Simple is Best"のVLANである。
ギガビットネットワークの帯域をVLANでユーザに割り与えることにより、フレキシビリティの高いネットワークをシンプルなアーキテクチャで実現している。データセンターにしても借り手がMANとあわせて、接続先を任意に設定できる点がアドバンテージとなっている。Exodusとの連係も魅力となっている。
Fig.3はDr.Maricleの描いた図であるが、これをもう少し解説するための例としてFig.3-1を示す。
ISP AはVLAN924で自社ネットワークをヒューストンに構築し、バックボーンはMAE-East方面に抜けている。
ISP BはVLAN700で自社ネットワークをヒューストンに構築し、バックボーンはMAE-West方面に抜けている。
ここでVLAN777というMAGIEのネットワークをタグの2重化で共有し、このセグメント上でISP
AとBがBGPのピアを張り経路を交換する。これにより、従来MAE-W → MAE-Eと大陸を一周していたトラフィックが地域内の高速ネットワークで結ばれることとなる。
また、Phonoscopeのユーザは、タグの設定一つで、一つのポートからISP
AでもISP Bでも自由に契約することができる。さらに帯域制御(802.1p等)により、普段は1Mbpsで契約し、「あすだけ3Mbpsにあげてほしい」というリクエストに対応することもできる。
所感
ヒューストンという街をなめていた。見ていた地図のスケールをまちがえたようだ。幅50マイルくらいありそうな広大な都市であり、ここにインフラ整備するのは大変なことだとおもう。Phonoscopeの本社は平屋建ての小さな建物で、この会社が2万マイルを超えるMANを構築し、地域IXの面展開をすでに実現していることにはおそれいった。ネットワークサービスについてはVLANがすべてであり「Simple
is Best」の戦略が美しい。SDHやATMなどの余計なものを挟まず、ギガスイッチだけで構成されたシンプルなネットワークは、『安い』、『速い』、『安心』といえよう。日本でもようやくMPLSだのVLANだのとデータリンク層サービスが注目される兆しがある。我々もPhonoscope
のように美しくいきたい。
添付資料
・Houston
Fiber Network (01/99)
・Downtown Houston - Phonoscope Fiber Map
・Ethernet ネットワーク図
・SONET ネットワーク図
・ラック構成
・ギガビットデータ通信サービス料金表
This page last updated at 8:30 on March 11, 2000
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